エンジニア採用で合理的配慮を求められたときの相談手順
株式会社adding / 採用内製化支援チーム
エンジニア採用 / 合理的配慮
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- 2026年9月29日
エンジニア採用で合理的配慮の希望を受けたときは、希望された手段をそのまま可否判定する前に、「何の能力を評価する選考か」と「その能力を確認するために現在使っている手段」を分けます。変えてよいのは、口頭での即答、画面共有、実施時間、回答方法といった手段です。職務に必要な能力と評価基準まで下げることではありません。
採用担当が支障と希望を聞き、EMが維持すべき能力評価と代替できる手段を整理し、必要ならCTOが全社共通の基準や大きな技術・運用変更を判断します。結論だけでなく、支障、検討候補、維持した基準、決定理由を一枚に残せば、配慮の相談と合否評価を混ぜずに進められます。
ただし、どの代替手段が適切かは希望の名称だけでは決まりません。個別の支障を改善できるか、元の評価基準を保てるか、会社が実施可能かを本人との対話で確かめる必要があります。
エンジニア採用の合理的配慮で先に分けるもの
2026年9月21日時点で、厚生労働省の「雇用の分野における合理的配慮に関する指針」の「第1 趣旨」「第2 基本的な考え方 1〜3」は、障害者雇用促進法の定義に該当する障害者から募集・採用時に申出があった場合、全ての事業主に、均等な機会を妨げる事情を改善するため障害特性に配慮した必要な措置を講じる義務があるとしています。事業主に過重な負担を及ぼす場合は除かれます。
同指針の「第3 合理的配慮の手続、1 募集及び採用時における合理的配慮の提供」は、応募者が支障となる事情と希望する措置を申し出て、事業主が支障を確認し、実施可能な措置を示すなどして本人と話し合う手順を定めています。希望を具体化しにくい場合は、支障を明らかにすれば足ります。相談の起点は支障であり、希望を聞いた瞬間の採否判断や、会社だけで決めた代案は避けます。
以下の対話シート、判断表、役割分担は、公正採用と個人情報保護を含む一般原則に基づく実務提案です。原典所定の分類や法的義務ではありません。適用法令と社内規程を確認して運用します。
能力と変更可能な手段を分ける対話シート
一枚のシートを、次の四つの欄に分けます。最初から診断名や病歴の詳述を求める欄は設けません。
| 欄 | 記録する内容 | 主な記入者 |
|---|---|---|
| 評価したい能力 | 入社後の職務に必要で、選考で確認する判断や行動 | EM |
| 現在の手段で生じる支障 | どの工程・条件が、能力を示すうえで妨げになるか | 採用担当が本人に確認 |
| 変更可能な手段 | 支障を改善し得る実施方法の候補 | 本人、採用担当、EM |
| 変更後も維持する評価基準 | どの回答・行動を同じ基準で評価するか | EM |
この分け方は、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」にも沿います。2026年9月21日時点で、同資料は、採用選考を応募者の適性・能力に基づく基準で行い、面接の質問項目と評価基準をあらかじめ決め、職務遂行に関係しない事項を尋ねないことを重視しています。合理的・客観的な必要性のない採用選考時の健康診断も、就職差別につながるおそれのある方法に挙げています。
評価したい能力が曖昧なら、合理的配慮の相談より前の設計に戻ります。エンジニア採用の要件定義|必須条件を絞る7項目と例で、入社後の役割から必要な能力を絞り、その能力を観察できる証拠へ結びつけます。面接官ごとの質問や判定をそろえる作業は、エンジニア採用の面接評価基準|技術面接を同じ手順で実行すると併せて行います。
判断表で代替手段を固定せず比較する
ライブコーディングで「問題を分解し、選んだ方針を説明する能力」を確認する場合を考えます。口頭で即答しながらコードを書くことは、その能力を観察する一つの手段にすぎません。本人から現在の形式では支障があると申出があれば、対話シートを判断表へ展開します。
| 相談する候補 | 評価基準を保てるか | 支障を改善できるか | 実施可能か | 記録する確認点 |
|---|---|---|---|---|
| 問題文や進行を事前提示する | 問題分解と方針説明を引き続き観察できるか | どの支障がどう変わるかを本人に確認 | 課題管理や面接運用を変更できるか | 事前提示する範囲と当日の追加条件 |
| 途中に休憩を設ける | 休憩前後を通じて同じ能力を確認できるか | 休憩の時機や取り方が支障に合うか | 面接枠と担当者を調整できるか | 中断時の状態と再開方法 |
| 説明を文字チャットで受ける | 方針と根拠の内容を同じ基準で評価できるか | 口頭回答に伴う支障を改善するか | 利用ツールと記録方法を用意できるか | 評価対象を文章の巧拙へすり替えない条件 |
| 持ち帰り課題へ変更する | 当初確認したかった能力を課題で観察できるか | 時間・環境の変更が支障に合うか | 課題の授受と評価手順を運用できるか | 本人が行った範囲と説明の確認方法 |
候補は一律の推奨順位ではありません。特定の手段が常に合理的配慮になる保証もありません。「評価基準を保てる」「支障を改善できる」「実施可能」の各欄を本人との相談で埋め、個別事情と過重な負担を踏まえて決めます。たとえば文字チャットへ変えても問題分解と根拠の説明を評価するなら、文章表現の滑らかさを新しい評価項目として加えません。持ち帰り課題へ変えるなら、ライブの反応速度を暗黙の減点要素として残さず、本人が行った範囲をどう確認するかを先に決めます。
同指針の「合理的配慮の確定」によれば、事業主は本人の意向を十分に尊重して措置を検討します。複数案があれば話合いの下で提供しやすい措置を選べ、希望された措置が過重な負担なら、過重でない範囲の措置を講じます。決定内容を伝え、本人の求めに応じて採用理由または実施できない理由を説明します。判断表の三観点は対話を支える実務提案で、指針所定の判定式ではありません。
採用担当・EM・CTOの実務分担
採用担当は窓口と合意記録を担う
採用担当は、申出を受ける窓口を一本化し、本人が困っている選考工程と希望する措置を確認します。希望が具体的でない場合は、現在の手段で生じる支障を聞き、診断名の説明まで迫りません。利用目的、社内での共有範囲、決定後に面接官へ伝える内容を説明し、本人との合意事項と未決事項を分けて記録します。
また、選考日程の変更、使用ツール、面接官への連絡を実行します。ただし、技術能力の基準を採用担当だけで変更しません。EMへ渡すのは、支障と希望、運用上の制約を整理した相談材料です。
EMは能力と手段を切り分ける
EMは、職務上必要な能力、観察したい行動、現在の選考手段を分けます。候補ごとに、手段を変えても同じ評価基準を維持できるか、別の能力を誤って評価しないかを確認します。面接官へは、変更後の進行と評価基準をセットで渡します。
合否評価には、配慮を求めた事実や調整の手間を入れません。変更後の条件で得られた回答・行動を、あらかじめ定めた適性・能力の基準に照らします。未確認の能力が残るなら、配慮の有無を理由に推測で補わず、追加確認が必要かを採用担当と整理します。
CTOは横断的な変更と一貫性を判断する
CTOが関与するのは、選考基準そのものへ影響する疑いがある場合、全社で使う課題や技術基盤の変更が必要な場合、複数職種へまたがる運用判断が必要な場合です。受け取る範囲をEMの権限内で代替できない論点に限り、個々の申出がすべてCTOへ集まる状態を避けます。
CTOは、同じ職務で維持すべき能力が候補者ごとに揺れている状態や、手段を能力として扱う評価が生じていないかを確認します。大きな変更を採らない場合も、「前例がない」という抽象的な理由で終えず、判断材料となった運用・技術上の制約を、採用担当が本人へ説明できる形にします。この分担は、一般原則を実務へ移す記事上の提案であり、原典所定の義務とは区別されます。
診断情報ではなく合意した選考条件を共有する
2026年9月21日時点の個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、「2-3 要配慮個人情報」「3-3-2 要配慮個人情報の取得」において、障害があることや病歴は要配慮個人情報に含まれ、法定の例外を除いて取得にはあらかじめ本人の同意が必要とされています。「3-1-1 利用目的の特定」は利用目的を本人が合理的に予測できる程度に具体化することを、「3-4-2 安全管理措置」は個人データの漏えいなどを防ぐため、リスクに応じた必要かつ適切な安全管理措置を求めています。
そのため、対話シートの閲覧範囲と、面接官用の実施指示を分ける運用が考えられます。採用担当が管理する対話シートには、本人から取得する必要がある情報、利用目的、共有範囲、合意した措置、決定理由を記録します。面接官への共有は、「問題文を事前提示する」「説明は文字でも受ける」「評価項目は問題分解と方針の根拠」といった、実施に必要な合意済み条件に絞り、診断名や病歴を含めません。
判断を再現する次の材料を、記録の最小単位とします。申出の詳細を広く残す趣旨ではありません。
- 対象の選考工程と、そこで評価する能力
- 現在の手段で生じる支障と本人の希望
- 検討した代替手段、それぞれの確認結果
- 採用した措置、維持する評価基準、実施担当
- 採用理由、または実施できない理由と代替措置
- 本人へ伝えた内容と面接官へ共有した条件
この記録があれば、面接官は合意した条件で選考を実施し、EMは能力の評価に集中できます。ただし、保存範囲やアクセス権などの具体的設計は、個人情報保護法その他の適用法令と社内規程に照らして決めます。
最終判断は「同じ能力を別の手段で確認できるか」
選考上の配慮希望に対する判断は、希望を認めるか拒むかの二択から始めません。採用担当が支障と希望を確認し、EMが評価能力と手段を分け、必要な横断判断だけをCTOへ上げます。判断表では、候補ごとに評価基準を保てるか、支障を改善できるか、実施可能かを確認し、本人との対話で決定します。
これにより、ライブコーディングの口頭即答を変更しても、問題分解と方針説明という能力は同じ基準で評価できます。変更後の手段で必要な能力を確認できないと分かった時点で、別の候補を相談します。配慮の内容と合否は別に記録し、面接官には実施に必要な条件だけを渡す。この境界が、能力評価を保ちながら合理的配慮を検討するための実務上の軸になります。